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5-32 日曜日の過ごし方 2

last update Last Updated: 2025-04-02 23:36:54

「あら、朱莉さんじゃないの?」

朱莉は突然背後から声をかけられた。恐る恐る振り返り、翔と明日香が仲睦まじげに腕を組んでいる姿が目に飛び込んできた。

(翔先輩……!)

その瞬間目頭が熱くなり、涙が出そうになった。しかし、それを必死で我慢すると挨拶した。

「こ、こんにちは。明日香さん、翔さん」

翔は朱莉が1人でいるのを見て顔色を変えた。

「朱莉さん……一体どうしたんだ? 昨夜はあの後、メッセージを送っても返信が無いし、部屋を訪ねても留守だったみたいだけど?」

どうしよう……。本当の事を言うべきだろうか? 朱莉はチラリと明日香を見た。

(駄目……明日香さんがいるから本当のことを言えない……それなら……)

「あ、あの。やはり母が疲れたから病院に戻ると言ったので……タクシーに乗って病院へ連れて帰って戻ったんです」

俯きながら朱莉は答えた。

「何だ……そうだったのか。何かあったのでは無いかと心配したんだよ」

翔は安心した表情を浮かべる。

「あら、そうだったの? 人騒がせな話ね」

「……ご心配おかけしました……」

眉を顰める明日香に朱莉は謝罪した。

「どうして本当の事を言わないんだい? 朱莉さん」

その時。

突然近くから男性の声が聞こえ、朱莉たちは一斉に声が聞こえた方向を振り返った。するとドッグランの柵に頬杖をついて、朱莉たちを見下ろしている人物の姿があった。

「きょ……京極さん……」

朱莉はごくりと息を飲んで京極を見上げた。

一体いつから京極は自分たちの会話を聞いていたのだろうか? 一気に緊張が高まり、朱莉は両手をギュッと握りしめた。

「あら? 貴方は確か……」

明日香が首を傾げる。

「ええ。僕が朱莉さんの犬を引き取った者です」

一方、何のことかさっぱり分からないのは翔の方であった。しかし、朱莉の犬を引き取って貰ったとなるとお礼を言わなければならない。

「朱莉さんの犬を引き取ってくれたと言う方は、ひょっとすると貴方だったのですか? どうも有難うございました」

翔は頭を下げると京極は眼を細める。

「貴方はどちら様ですか?」

尋ねたその瞳はどこか棘がある。

「え……?」

2人の様子を見た朱莉は焦った。

(いけない! 今翔先輩は明日香さんと腕を組んでいる……。もし翔先輩が正直に話してしまったら……!)

「あ、あの……この方はこちらにいらっしゃる明日香さんと言う方の……お兄様に当たる
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  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   <スピンオフ> 第4章 大企業の御曹司 3

    「とにかく、もう遅いから今夜はここに泊って行ってもいいけど明日はちゃんと家に帰るんだよ? 父さんと母さんが心配するから」「分かったわよ」まどかは口をとがらせながらクッションを抱えた。「そういえば、まどか。夜ご飯は食べたのかい?」「ううん、まだよ。だって帰ったら早々にお父さんとお母さんからお兄ちゃんのお見合いの話聞かされたんだもの」「もう20時だっていうのにまだ食事をしていなかったのか? それじゃ何か用意するから待っておいで」蓮は対面式のキッチンに立つと食事の用意を始めた。「本当? やったー! お兄ちゃんの料理はおいしいからね。あ、もちろんお母さんもおいしいけど」「まどか、なんで夜ご飯まだだったんだ?」料理をしながら尋ねる蓮。「今日はね、突然シフトが変わってバイトの時間が変更になっちゃったのよ」まどかは大企業の社長令嬢でありながら、ゲームセンターでアルバイトをしているのだ。バイト仲間にはもちろんそのことは秘密にしてある。「そうか、偉いな。バイトして……。でも勉強も頑張るんだぞ?」「うん。だけどお兄ちゃんも学生時代ずっとファミレスでアルバイトしてたじゃない」「まあね。父さんから社会勉強の為に自分でバイトを探して働くように言われたからね。でもそのおかげで料理の腕が鍛えられたよ」料理を続ける蓮。「そうだよ……これだよ……」唇を尖らせるまどか。「何が?」「お兄ちゃんが格好良すぎるのいけないんだよ! 顔もよし、性格も頭もよし! おまけに背は高くて女性に優しく、料理も得意。だから私はその辺の男の子たちじゃ物足りないんだよ! 今まで男の子と付き合っても3か月持ったことないんだからね!? やっぱり責任取って結婚してよ!」「無茶言うなよ………」蓮はため息をつく。「だったら一生誰とも結婚しないで独身でいてよ! そしたら許してあげる!」「……結婚か……。う~ん…そればかりは相手次第だからな……」真面目な蓮は真剣に考えながら答える。別に蓮は今すぐ誰かと結婚をしたいわけではないが、何年たっても仲睦まじい両親を見ていると、自分もああいう夫婦関係になれればと憧れはある。「はい、出来たよ」蓮は対面式のキッチンから腕を伸ばし、カウンターテーブルの上に料理の乗った皿をトンと置いた。「嘘!? もう出来たの!?」ソファから降りてきたまどかはテーブルの上

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